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マーク・ロスコの〈シーグラム壁画〉

DIC川村記念美術館が所蔵するマーク・ロスコ(1903-1970)の作品群は〈シーグラム壁画〉と呼ばれるシリーズのうちの7点で、もともと一室に飾られるためのものでした。その誕生は、1958年春、50代半ばにして大家と認められたロスコが、マンハッタンに新しくできるシーグラム・ビル内のレストラン「フォー・シーズンズ」のために、作品制作の依頼を受けたことをきっかけにしています。最高級の料理と優れた現代アートをともに提供するというコンセプトのもと、ロスコも作家のひとりに選ばれ、レストランの一室の装飾を任せられたのです。当時のロスコは、グループ展などで他人の作品と同じ部屋に作品が並ぶことを嫌い、自分の絵だけでひとつの空間を創り上げたいと切望していました。そこで、およそ一年半を費やし、30点の絵画を完成させたのです。

それら〈シーグラム壁画〉は、雲のように茫洋と広がる色面が内に孕んだ光を静かに放つロスコの代表的な絵画とはいくつかの点で異なっています。まず、全体の半数以上が横長の画面で、多くは横幅が4.5メートルに及ぶものとなっています。これまでにない大作となったのは、ロスコがこれらを「絵」ではなく「壁画」と考えたからであり、紙に残されたスケッチからは、複数の作品を間隙を空けずに連続して展示し、まさに壁全体を作品にするような構想があったこともわかっています。また、雲のような色面は姿を消し、代わりに深い赤茶色の地に表れたのは、赤、黒、明るいオレンジのいずれかで描かれた窓枠のような形でした。とはいえ、それは現実の窓ではなく、いわば概念としての「窓」—赤い広がりとなった彼岸への窓あるいは扉といえるものです。そしてそれは閉じたまま、あちら側の世界とこちら側の世界の境界を示すのみで、あちらへ踏み入ろうとする私たちの意志を拒むように見えます。あるいは、乾いた血を思わせる色合いや、薄く何層にも塗り重ねられた独特の絵肌におどろおどろしさを感じる人もいるでしょう。ところが、しばらくこの壁画群に囲まれていると、まるで自分の意識が赤く染まるよう感覚を覚え、やがては深い内省をうながされるのです。

ロスコが新境地を開いた〈シーグラム壁画〉ですが、完成後にレストランに飾られることはありませんでした。一足早くオープンした店を訪れたロスコがその雰囲気に幻滅し、契約を破棄してしまったからです。しかし、一度は行き場をなくした絵画群も、1970年にロンドンのテイト・ギャラリー(現テイト・モダン)にうち9点が寄贈され、1990年には7点がDIC川村記念美術館に収蔵されることとなりました。以降、このふたつの美術館ではそれぞれの〈シーグラム壁画〉のために一部屋を設け、常時公開しています。そのほか、アメリカ、ワシントンDCのフィリップス・コレクションにあるロスコ・ルーム、ヒューストンのロスコ・チャペルを含め、ロスコの作品のみで出来上がった空間は、世界にたった4カ所となっています。


マーク・ロスコ 《「壁画 No.4」のためのスケッチ》 1958年 絵具、顔料、溶き油、膠、全卵、天然樹脂、合成樹脂、カンヴァス 265.8 x 379.4cm
© 2008 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko/ARS, New York/SPDA, Tokyo


DIC川村記念美術館の「ロスコ・ルーム」

関連収蔵作品

  • 《「壁画 No.1」のためのスケッチ》 1958年
  • 《無題》 1958年
  • 《壁画スケッチ》 1958年
  • 《壁画スケッチ》 1959年
  • 《壁画セクション 1》 1959年
  • 《無題》 1959年

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