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マーク・ロスコ 《無題》 1958年 川村記念美術館
©1998 by Kate Rothko Prizel and Christopher Rothko
本展覧会は終了しました。
本内容は展覧会開催期間中の情報で、現在開催中の展覧会情報とは異なりますので、ご注意ください。
マーク・ロスコは、1903年、ロシアのドヴィンスク(現在のラトヴィア共和国、ダウガフピルス)に生まれました。少年期に家族でアメリカに移住し、名門イェール大学に進みますが二年で中退し、1923年にニューヨークに出て画家を目指すようになります。最初は室内の人物や地下鉄の駅などの都会の風景を暗い色調で描き、次いで古代神話にちなむ題名をつけたシュルレアリスム風の絵画を手がけたのち、1940年代の半ば過ぎから具象を離れ、ついには大きな画面にぼんやりとした雲のようなかたちが浮かぶスタイルに到達します。抽象でありながら、光をはらんだ色面が醸し出す神秘性・叙情性に満ちたその絵画は、たちまち世間の注目を集め、ロスコはアメリカを代表する人気画家となったのです。
名声に浴するかたわら、ロスコは「自分の絵画空間」を手に入れる夢を抱きはじめます。それは、他の画家の絵とは一緒にされず、自作だけが部屋の壁に掛けられ、自分の思いどおりに照明や展示がなされた部屋のことでした。そうすることではじめて、ロスコの絵は息づき、複数の作品が音楽のように響き合って、鑑賞者をすっぽりと包み込むことができるからです。
本展に出品されている〈シーグラム壁画〉は、ロスコが初めて空間を与えられ、そのために手がけた連作です。しかし、注文を受けた場所は、セレブリティたちが夜ごと着飾って豪華な食事とおしゃべりを楽しむ、ニューヨークのシーグラムビル内にある最高級レストラン「フォー・シーズンズ」の一室であり、そのスノッブな雰囲気を気に入らなかったロスコは、一度は喜んで引き受けた話を断り、完成した30枚の絵は行き場を失ってしまいます。
それ以前に手がけていた作品と異なり、壁のように大きな横長の画面に、窓枠を思わせるかたちが配され、深い赤茶色、オレンジと黒を基調に描かれた〈シーグラム壁画〉は、より深遠な、未知なる世界にわたしたちを誘います。古代の遺跡にも似たその圧倒的な存在に包まれて、自身を省み、心を彷徨わせ、瞑想にひたる――そうした空間の実現を、ロスコはどれほど待ち望んでいたことでしょう。そしてついに1970年、9点の〈シーグラム壁画〉は大西洋をわたり、ロンドンのテート・ギャラリーに終の棲家を見出しました。また、7点は1990年の開館以来、川村記念美術館の一室に展示され、このアジア唯一のロスコ・ルームは多くの人々に親しまれています。
このたびの展覧会では、50年以上にわたって散逸したままだった〈シーグラム壁画〉の半数となる15点が初めて一堂に会し、あらたなロスコ空間を創り上げます。おそらく二度と見ることができない千載一遇の機会となることでしょう。そのほか、〈シーグラム壁画〉のための展示模型や関連作品、〈シーグラム壁画〉以前の大作、以降に制作された幻の連作など13点と、本邦初公開となるロスコの書簡などをあわせてご紹介し、晩年のロスコ芸術の真髄に迫ります。
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1970年から38年間、ロンドン、テート・ギャラリーに存在しているロスコ・ルーム。
1990年から18年間、千葉県佐倉、川村記念美術館に存在しているロスコ・ルーム。
生前のロスコの強い希望により、恒久的に〈シーグラム壁画〉を一室で展示する英日のロスコ・ルームは、美術ファンにとっての人気スポットです。その両館にとって、散逸した〈シーグラム壁画〉をまとめて展示することは長年の夢でした。本展会場で、テートが所蔵する3点、ワシントン、ナショナル・ギャラリーが所蔵する5点、川村記念美術館が所蔵する7点の合計15点が並ぶ光景は圧巻でしょう。
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テート・モダンのロスコ展会場(2008年)
©Tate, London 2008
晩年のロスコは、自作の真の理解者を求め、我が子のように大切な作品を託そうとしていました。1965年、当時テートの館長を務めていたノーマン・リードは、作品の寄贈を依頼するためにロスコのもとを訪れ、それから4年以上の長い時間をかけて画家の信頼を得、友情を育み、ようやく〈シーグラム壁画〉を譲り受けることができたのです。本展では、その間、ロスコがリードに宛てた16通の手紙を本邦初公開します。迷いや焦り、疑念や信念、怒りや喜びなど、揺れ動くロスコのさまざまな感情をそこに読み取ることができるでしょう。

〈シーグラム壁画〉のプロジェクトが頓挫した後も、ロスコは、ハーヴァード大学の関係者用ダイニング・ルームや、ヒューストンのメニル夫妻が建設する教会のための連作を手がけ、自作が並んだ空間をなんとかして手に入れようとし続けました。しかしそのほかに、もうひとつの連作があったのです。それが、1964年にロスコが制作した9点の「黒い絵」。漆黒、濃紫、焦げ茶など、かぎりなく黒に近い色を用いて、画中に矩形をひとつ置いた作品群には1から順に番号がふられており、連作として描かれた可能性が示唆されています。本展会場ではそのうち4点が並び、もうひとつのロスコ空間が現出します。その静けさは深い闇を思わせ、神聖さすら湛えています。

本展では、通常の〈シーグラム壁画〉の展示とは異なる方法をとっています。これは、いずれも生前のロスコの希望を考慮したものです。まず、全 作品が見上げるような高い位置に掛けられていること。もともとレストランのために描いた〈シーグラム壁画〉は、テーブルについた人の頭越しに鑑賞できるよう、床から120センチ以上高く掲げるのが好ましいと、ロスコは1961年の回顧展に際して指示を出しています。ふたつめに、作品と作品の間隔を狭めていること。これも、ロスコ自身のスケッチからヒントを得たもので、複数の絵の連なりを一枚の巨大な壁画のようにとらえることができます。そしてもうひとつ、自然光が入る部屋に展示されていること。ロスコが〈シーグラム壁画〉を制作したスタジオには、天井近くに明かりとりの窓がありました。その雰囲気に近づけ、外光にあわせて刻々と変化する絵肌を楽しんでいただけるようになっています。

| 日時 | 講演者 | 内容 |
|---|---|---|
| 3月29日(日) 17:30-19:00 |
茂木健一郎(脳科学者) × 林寿美(川村記念美術館学芸員) |
赤い<シーグラム壁画>に囲まれた展覧会場で、ロスコ絵画の魅力を異分野の専門家同士が語り合います。 |
| 日時 | 講演者 | 内容 |
|---|---|---|
| 2月21日(土) 3月14日(土) 4月10日(金) 5月24日(日) 各日14:00-15:00 |
林寿美 (川村記念美術館学芸員) |
本展を企画した学芸員が展覧会の解説をします。 |
2/21、3/14、4/10、5/24を除く毎日 14:00-15:00
ロスコ展とコレクション展示の解説のほか、モーツァルトとシューベルトの室内楽曲を収録。
クラシック音楽をこよなく愛したロスコを偲んでご子息のクリストファー・ロスコ氏に選曲していただきました。
[川村記念美術館 企画・監修/淡交社/2940円]
展覧会を記念して刊行される、ロスコの代表作約100点を収録した日本で初の本格的作品集。生前のロスコを知る美術史家ドリー・アシュトンへのインタヴュー、テート・モダンでロスコ展を担当した学芸員アヒム・ボルヒャルト=ヒューム氏と、同館が収蔵するシーグラム壁画を研究・調査した修復家チームによる論文にくわえ、村田真氏による評伝、加治屋健司、林道郎両氏による論考、年表・参考文献など、最新情報を反映したロスコ論と資料を収録し、ロスコ芸術の全貌に迫ります。
当館ミュージアムショップで2月21日より先行発売、全国書店での発売は3月5日予定です。
[クリストファー・ロスコ編/中林和雄 訳/みすず書房/5460円]
子息クリストファー・ロスコの編になる『ロスコ 芸術家のリアリティ―美術論集』は、画家マーク・ロスコが矩形の浮かぶ独自の様式にいたる前、1940年代前半にみずから綴った草稿を編んだものです。模索の苦しみのなかで絵筆をおいてペンをとり、造形芸術の「リアリティ」の系譜を記しつづけたロスコは、数年後ふたたび画布に向かったとき、現在ロスコの到達点として認められる純粋な抽象画へと変化を遂げていました。
転回点となった思索の全貌を明かす『ロスコ 芸術家のリアリティ』は、2月18日刊行予定です。
(以上みすず書房サイトより)
出品リスト(PDF:56KB)
ロスコ略年譜 (PDF:144KB)

スタジオで制作中のマーク・ロスコ、1954年頃
© 2009 Kate Rothko Prizel and Christopher Rothko Photograph by Henry Elkan