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マリー・ローランサン 《 黒馬 あるいは 散策 》 1924年
油彩、カンヴァス
このページの図版はすべて
マリー・ローランサン美術館所蔵
©ADAGP, Paris & SPDA, Tokyo, 2009
(ただし、挿画本『扇』を除く)
「死んだ女より哀れなのは、忘れられた女です」。この有名なフレーズで知られるように、画家マリー・ローランサン(1883-1956)は自ら詩を書き、多くの詩人と交流しました。1922年に友人の詩人たちはマリーを称える詩を寄せ合い出版しますが、この詩集には「扇」というタイトルが付けられました。なぜならエレガントでミステリアスな女性を想像させる扇は、マリー・ローランサンのシンボルとなっていたからです。
このことを知るとき、「扇」という言葉は「絵画と詩」「女性的な世界」の2つの次元において、マリー・ローランサンの世界を象徴するキーワードとしてとらえられます。マリーの絵画に漂う叙情性は、色彩と詩情の融合と呼ぶに相応しく、彼女が描き続けた世界は、まさに扇にたとえられるような優雅と洗練、魅惑に満ちた女性たちの夢の王国にほかならないからです。
本展では長野県蓼科高原にあるマリー・ローランサン美術館のご協力により、青春時代から円熟期までの歩みを、代表的な油彩画のほか、それぞれの時代に描かれた自画像、挿画本など33点の作品によってご紹介いたします。扇を広げてゆくと、閉じられていたときには見えなかった美しい模様があらわれるように、出品作品を新しい感動と共にご覧いただければ幸いです。
ピカソやマティスが活躍した20世紀初頭の芸術都市パリ。マリー・ローランサンは若き前衛芸術家の仲間に囲まれ、その刺激的な環境の中でパステルカラーによる独自の絵画をつくりあげました。第一次世界大戦中のスペイン亡命、フランスへの帰国後の充実した制作活動を経て、ひたすら独自の世界を描き続けた円熟期に至るまで、マリーの絵画は、人生と共に変化してゆきます。本展では特にその色彩の変遷に注目しました。
ピカソやブラックと知り合い、詩人アポリネールの恋人となったマリーは、前衛的芸術家のグループの一員として迎え入れられます。ブラウンを基調とした落ち着いた色調で描かれた作品群には、ピカソやブラックらの創始したキュビスムの影響や、またエジプト美術など古代、オリエントの芸術への傾倒もあらわれています。
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《 パブロ・ピカソ 》 1908年頃
油彩、カンヴァス 41 x 32.9cm
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《 狩りをするディアナ 》 1908年
油彩、板 20.3 x 28.2cm
やがてマリーはキュビスムの手法による幾何学的な描線と、ピンク、グレー、淡いブルーを基調とするパステルカラーを融合させた独自のスタイルを確立します。国外にも作品が紹介されるなど、自立した女性画家として注目される存在となりました。
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《 扇 》 1911年頃
油彩、板で補強したカルトン 59 x 47cm
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《 アンドレ・グルー夫人ニコル(旧姓ポワレ) 》 1913年頃
油彩、カンヴァス 110 x 70cm
恋人アポリネールとの別れ、母の死を経てドイツ人と結婚したマリーは、第一次世界大戦によって「敵国人の妻」となってしまい、中立国スペインで5年間の亡命生活を送ります。親しい人との別離や苦悩を反映して、画面は深い色合いを帯び、また格子やカーテンなど「囚われの身」を象徴するモティーフが画面に描かれます。
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《 囚われの女(II) 》 1917年
油彩、カルトン 20 x 13.7cm
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《 小舟 》 1920年頃
油彩、カンヴァス 71.8 x 90cm
離婚によってフランス国籍を回復したマリーは生まれ育ったパリに戻り、孤独と不安から解放され充実した制作活動を送ります。友人たちがマリーを称える詩集『扇』を出版したのも、彼女の帰国を祝ってのことでした。帰国前に夫の故郷ドイツに滞在した経験を契機に、画面には「緑の森」を背景に遊ぶ少女たちが数多く描かれるようになります。優雅で官能の色を帯びたマリーの絵画は、戦後のパリの文化的・社会的状況を見事に表現しており、ココ・シャネルら社交界の名士がこぞってマリーに肖像画を注文するなど、華やかな成功の時代が訪れます。
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《 お城の生活 》 1925年
油彩、カンヴァス 114.7 x 162.2cm
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『扇』 1922年
挿画本 24.3 x 19.5cm
パリ、新フランス評論社(N.R.F.)
ルイ・コデ、ジャン・ペルラン、ロジェ・アラール、アンドレ・ブルトン、フランシ
ス・カルコ、モーリス・シュヴリエ、フェルナン・フルーレ、ジョルジュ・ガボ
リー、マックス・ジャコブ、ヴァレリー・ラルボー、アンドレ・サルモンによる詩
マリー・ローランサンによる10枚の銅版画
再び戦争が訪れ、マリーは家政婦(後に養女)のシュザンヌと二人で静かな生活を送りながら、ひたすら美しい乙女たちを描き続けます。視力の衰えが進行する中、画面にはそれまでになかった明るく輝く色彩が置かれるようになり、パステルカラーのパレットには、若い頃には避けていた赤や黄色が加わりました。夢の世界に住む妖精のような少女たちは、1920年代に比べて手脚のラインや顔の造形がはっきりとした女性像へと変貌してゆきます。
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《 アルルキーヌ(女道化師) または青い眼の少女 》 1940年
油彩、カンヴァス 60.7 x 50.2cm
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《 三人の乙女 》 1938年
油彩、カンヴァス 33 x 55cm
本展出品の『扇』所収の詩をはじめ、マリー・ローランサン自身による詩、恋人アポリネールやピカソの愛人フェルナンド・オリヴィエ、堀口大學ら友人・知人がマリーについて書き残したテクストなど、マリーにまつわる詩や言葉を音声ガイド、展覧会カタログでご紹介します。このほか展覧会カタログでは、エピソードを集めたコラム集、辛酸なめ子氏によるエッセイを掲載いたします。
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《 猫と女あるいは娼婦のプリンセス 》 1920年
油彩、カンヴァス 81.6 x 48.9cm
| 日時 | 担当 |
|---|---|
| 1月26日(火) 2月20日(土) 3月13日(土) いずれも14:00-15:00 |
横山由紀子 (川村記念美術館学芸員) |
1/26、2/20、3/13を除く毎日14:00-15:00
コレクション展示と「マリー・ローランサンの扇」の解説を収録しています。
ローランサンといえば、恋人のアポリネールや堀口大學など男性の目線から語られることが多かったために、ある意味偏ったローランサン像が形作られてきた歴史があります。
本展のカタログは、日本におけるローランサン受容の歴史をひも解きながら、あらためて現代の女性の目線から、この画家の姿を描こうとする試みです。
内容は、辛酸なめ子氏のエッセイ「マリー・ローランサンの恋愛力」を皮切りに、学芸員による新鮮な切り口の論文「マリー・ローランサン像の形成」、出品作品解説、ローランサン小辞典、年譜、主要参考文献と続きます。
出品作品解説のパートでは、右ページに作品図版と解説テキスト、左ページにはローランサンが親友に充てた手紙、アポリネール、ガートルード・スタインらローランサンを直接知る人々の証言を多数紹介。
当時のローランサンを取り巻く人間関係と彼女の人物像が手に取るようにわかる、大人向けの絵本のようなカタログです。
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『マリー・ローランサンの扇』 2500円 (税込)
川村記念美術館ミュージアムショップにて販売中。