DIC川村記念美術館には、大きさや意匠の異なる11の展示室があります。開館準備段階でコレクションの大部分を収集していたことから、建築設計で目指したのは、多様な作品それぞれにふさわしい空間づくりでした。作品のサイズや形状、周りに醸し出す雰囲気までも考慮した11のユニークな展示室は、作品の魅力を十分に引き出し、観る人と作品をゆるやかに結び合わせる最適な場となっています。

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Gallery 101

ヨーロッパ近代絵画の部屋

印象派絵画はその時代、日常の居住空間に飾って鑑賞する身近なものでした。美術館でもリラックスして鑑賞できるよう、天井はアーチ型に、床にはカーペットを敷き、居間のような空間としています。ゆったりとした展示室で観るモネやシャガールの作品は、親しみをもってこちらに語りかけてくるようです。

Gallery 101

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Gallery 102

広つば帽を被った男の部屋

当館で最も小さな展示室には、17世紀オランダの巨匠レンブラントによる肖像画が1点だけ掛けられています。自信と風格が表れる男の顔は、優雅な雰囲気をたたえるとともに、どこか親密さが感じられることでしょう。絵の中の人物と一対一で向き合うために考えられた適切な距離が、こうした感慨を与えています。

Gallery 102

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Gallery 104

第二次世界大戦前後のヨーロッパ美術の部屋

低い天井に壁、床をグレーで統一し、照度を抑えた小ぶりな部屋は、アルプ、エルンスト、マグリットなどダダ、シュルレアリスムの作品と、デュビュッフェやヴォルスらアンフォルメル絵画の展示を念頭に設計されました。古い価値観を打ち破ろうとする精神や、二つの世界大戦を背景に生まれた作品の内実を見つめることができる空間です。

Gallery 104

© 2023 Calder Foundation, New York / Artists Rights Society (ARS), New York / JASPAR, Tokyo G3388

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Gallery 106

マーク・ロスコの部屋

マーク・ロスコの連作〈シーグラム壁画〉7点を恒久展示する部屋として、2008年に増築されました。壁面に1点ずつ絵を掛けられるよう変形七角形となっており、作品に包まれる感覚を強めるため、壁のコーナーは曲面に仕上げられています。また、繊細な絵肌を引き立てるため壁には珪藻土を、床には黒く焼いたナラ材を用いて、光の反射を抑えています。

Gallery 106

© 1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko / ARS, New York / JASPAR, Tokyo G3388

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Gallery 201

抽象表現主義以降のアメリカ美術の部屋

第二次世界大戦後のアメリカ美術の大型作品を展示するために設計されたこの部屋は、ダイナミックな作品の魅力が映える大きな空間を備えています。天井のトップライトによる一方向的な光は作品の複雑な色彩や立体感を浮き上がらせ、外光の移ろいが空間に表情を与えます。

Gallery 201

© ️2023 Frank Stella / ARS, New York / JASPAR, Tokyo G3388

作品との親密な出会いのために

当館のコレクション展示では、作品解説のパネルを設けず、キャプションのみを掲示しています。また、作品保護のための結界は、極力目立たないように設置しています。これは、厳選された作品一つ一つをじっくりと鑑賞できる環境を整え、「来館者と作品の直接的で私的な出会いを大切にする」という方針に基づいています。